地球規模のリーダーシップが可能にしたCOVID-19ワクチンの年内開発
CEPI(Coalition for Epidemic Preparedness Innovations, 感染症流行対策イノベーション連合、本部ノルウエー)の責任者リチャード・ハシェッド氏 によれば、コロナウィルスのワクチンは年内に接種可能になる可能性が高い。通常であればどんなに急いでも12から18ヶ月を要するワクチン開発がここまで早く実現する見通しがついたのは、今までにない企業間の協業、 臨床実験などが今までになく迅速に進んでいることによるそうだ。この記事は共同通信が配信、日本では佐賀新聞がいち早く掲載している。
CEPI(Coalition for Epidemic Preparedness Innovations)は、世界連携によってワクチン開発を促進するため、2017年1月ダボス会議で発足した官民連携パートナーシップである。日本、ノルウェー、ドイツ、英国、オーストラリア、カナダ、ベルギーに加え、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、ウェルカム・トラストが拠出し、平時には需要の少ない、エボラ出血熱のような世界規模の流行を生じる恐れのある感染症に対するワクチンの開発を促進し、必要とされれば無料で提供することを目的としている。こうした連携の基礎にあるのが、貧しい国も裕福な国も等しく「すべての人に健康を!」というプライマリ・ヘルスケアの考え方である。1978年には「プライマリ・ヘルスケアに関する国際会議」をWHOとユニセフが共催し、その最終日に「アルマ・アタ宣言」が採択されている。国境のない感染症に対して、国境のない対策が必要であり、市場に任せていては不可能なグローバル連携を実現する取り組みである。
Nature誌によれば、4月8日現在世界で78のCOVID-19に対するワクチン開発プロジェクトが進行中であり、56(72%)が企業、22(28%)がアカデミー/政府/NGOによるものである。そしてその内の5つがフェーズ1/Ⅱという、人間を対象とした臨床開発段階に進んでいる。こうした世界的連携があるからこそ結果が出始めているのだが、これに棹差すのがトランプ大統領が4月14日に発表したWHOに対する資金拠出停止だ。
WHOは上述のCEPIとも密に連携を取り合ってコロナ対策を進めているが、この国連機関に対して米国が年間約4億ドルを拠出していた。拠出停止の理由は、WHOがコロナ対策で成果を上げられず中国寄りの立場を取っている事とされた。そして米共和党上院議員Josh Hawley氏に至っては「WHOは中国共産党のプロパガンダ機関に成り下がっている」とまでツイートしている。一般的にそのような事実は認めらておらず、このような発言は、自らの失政を外に向ける政治の責任転嫁としか思えない。アントニオ・グテーレス事務総長は「現在はWHOの資金を削減する時ではない」という声明を出している。当然だろう。たとえその運営に多くの問題があったとしても、グローバルなコロナ対策の中心に位置する機関の予算を削るタイミングではない。
人間社会は、過去にバクテリアによるインフルエンザ、麻疹、おたふく風邪、風疹、破傷風などの感染症をほぼ根絶してきた。COVID-19ワクチン開発については過去に例がないほど迅速に、かつ地球規模の連携に基づいて行われている。僻地であっても、貧しい地域であっても、一ヶ所での感染拡大が、そのまま世界の問題に短期間で直結する時代だからこそ、グローバルな協力によって年内のCOVID-19ワクチン開発が可能になったのであり、「アルマ・アタ宣言」の理想を共有することが、自国の安全に直結する時代なのである。こうした連携を促進することによって、近い将来人間社会を席巻するであろう未知のウィルスX、そしてガンに対するワクチンも開発の視野に入っているという。日本でも分子免疫学、分子細胞生物学、あるいは熱帯医学研究などの分野で大きな貢献をしてきている。
しかし、こうした将来の展望を支える政治的なリーダーシップについては不安を感じざるを得ない。米国がWHOの予算をカットするのであれば、日本からその代案を示すくらいの矜持を示すことが必要ではないだろうか。何が何でもトランプ政権に追従するのでなく、日本らしい政策を提案することが日本を守ることに繋がる。残念なことに、トランプ氏をノーベル平和賞に推薦する安倍政権にそんな政策を期待することは出来ない。コロナ対策ではオリンピックを考えた初動の遅れがあり、PCR試験を極端に制限し、感染の実態を明らかにする努力は無きに等しかった。外交では誤った米国追従、内政では「民は由らしむべし、知らしむべからず」と言わんばかりの日本の政治は1日も早く変えるべきではないだろうか。