コロナ禍の責任を中国に向けるトランプ政権に同調してはならない

Tadashi Inuzuka
5 min readMay 8, 2020

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コロナ禍で世界は大きく変わろうとしている。中国共産党の一党独裁政権はその強大な権力をもって移動禁止を強制した。さらに全国民をその監視下に置く政策を加速させている。未知の感染症に対して、そうした権力の行使はうまく行っているように見える。報道の自由が著しく規制されている国の状況を外から窺い知ることは難しいが、社会的な隔離政策を行う上でトップダウンの政策執行を日常的に行っている国が効率的であろうことは想像に難くない。そして多くの民主主義国家も程度の差こそあれ同じ政策に取り組んでいる。中国が強制路線の最右翼ならば、反対軸にスウェーデンがあり、その中間に多くの民主主義国家が位置している。フランスでもロックダウン政策を強制して全ての飲食店等を閉めさせたが、経済的支援を併用しているおかげか、大規模な反対運動にはつながっていない。日本は強制力に裏打ちされたロックダウンはしていないが、非常事態宣言に反して営業を続ける事業者の名前を公表することによって圧力を強めるというやり方をしている。警察官に街をパトロールさせる国もある中で、日本ははるかにましと感じるかもしれない。しかし、検査が著しく制限され続ける中で我々は感染の実態を知ることができていない。それどころか、現政権は事実を知らせる努力を放棄しているようにさえ見える。知り得る限りの実態を共有しないで相互監視のような形に持って行くのは陰湿と言わざるを得ない。ニューヨークのクオモ知事の支持率が上がっているのは、良い情報であっても悪い情報であっても、それを真摯に共有する姿にあるが、安倍政権はその正反対のやり方を続けている。

さて、このようにやり場のない怒りが蓄積する中、ドナルド・トランプは4月19日の記者会見以来、「コロナ禍が中国の責任であることは間違いない。ただし、故意か過誤かで責任の取らせ方は大きく違ってくる」という趣旨の発言を繰り返している。4月20日FOXニュースでは、スティーブ・バノンがインタビューに答える形で、この非常事態の責任を完全に中国に向け、返す刀で米民主党の国際協調路線を切り捨て、この非常事態を大統領選挙の切り札に使おうという強い意図が伝わってくる。危険極まりない選挙対策と言わざるを得ない。こうした分かり易いプロパガンダによって、苦しい生活を強いられる怒りが最終的に他国や少数民族に向けられ、政治によってさらに増幅されることで、他国への侵略、少数民族に対するジェノサイド、非戦闘員をターゲットにした虐殺行為など、人類の良心に衝撃を与えるような事態が歴史上何度となく繰り返されてきた。まさか、と思われるかもしれない。杞憂であってほしい。しかし、万が一こうした政治に歯止めが効かなくなり、エスカレートするならば、我々は民主主義の限界を再度目撃することになる。日本は絶対にこうしたトランプ政権の選挙対策に同調してはならない。冷静に事実を見て、国際法を重んじる立場を貫かねばならない。

思えばイラク戦争の時、国際法に違反している戦争にドイツとフランスが反対した。当時のブッシュ政権は大量破壊兵器が存在するという不正確かつ後に過ちが明らかになった情報を振りかざす形で、英国を巻き込んで侵略戦争に突入していった。今となっては、イラク戦争に賛成の投票をしなかったことが米大統領選挙で得点になるほど、米国内においてさえその間違いは認識されている。あの時の日本はどうだったか?目をつぶって最大限の支援をしただけでなく、当時の与党議員は「イラク戦争は侵略戦争ではない」と堂々と主張していた。まさに政治の大きな部分が思考停止に陥っていた。あの戦争はブッシュ政権の最大の汚点であり、その後の米国にたいへんな負担を残してしまった。米国民の大多数も今はこの失政を認めるが、当時は「フレンチ・フライ」を「フリーダム・フライ」と呼び変えるほど独仏に対する反感が強まった。胸に星条旗のバッジを付け、異論は許さない雰囲気がみなぎっていた。個人的にも私たちの長年の友人関係の一つが、こうした雰囲気の中で壊れてしまった。しかし、現在はどうか。アメリカ国民、そして国際社会の中で、独仏に対するある種の信頼感が醸成されたのではないだろうか。長い目で見た時、こうした信頼感こそ自国を守る大きな資産なのではないだろうか。

コロナ禍の世界的な蔓延の震源地は確かに中国だ。そして仮に世界的蔓延に中国政府に重大な責任があり、かつ事実関係の確認が難しい不透明さがあったとしても、我々の怒りを、目をつぶって中国という国に向けてはならない。事実を確認しなければならない。COVID-19は地球規模のパンデミックである。世界中の人達が被害を被っている。その経済的な打撃は数十年に渡って続くだろう。その責任を安易に他国に向け、あるいは国内の少数民族に向けることは、世界恐慌や大きな自然災害が起こった時に繰り返し行われてきた政治の許しがたい間違いなのある。

トランプ政権がどこまで今の緊急事態を選挙対策として利用するかは不明だが、日本人はそんな政権の提灯持ちなど決してしないであろう。我々は事実を見る。そして是々非々で判断する。しかし、そんな日本でも一抹の不安を感じさせるのは、戦後米国だけを見続けてきた日本外交の固定観念であり、東洋と西洋を対等に見ることが出来ず、時としてアジア諸国を見下すような発言をするマスコミ、政治家であり、ドナルド・トランプをノーベル平和賞に推薦するような安倍政権の卑屈な姿である。今こそ信頼感のもてる、日本らしい外交を見せる時ではないだろうか。

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Tadashi Inuzuka
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Written by Tadashi Inuzuka

WFM-IGP Executive Committee member, Former Senator of Japan

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