子供の人権を守る「フレンドリー・ペアレント・ルール」

Tadashi Inuzuka
Oct 29, 2020

単独親権と共同親権

日本には共同親権を規定する国内法がない。子が未成年の場合、婚姻中は父母が共同して親権を行使するが、離婚した 時は、父母どちらかの単独親権となる。離婚後も父母双方が子育てに適切に関わるこ とが子の利益の観点から重要であるとされているが 、参議院の調査室によれば、面会交流の実施状況や 養育費の支払率は低調だ 。また、単独親権は子育ての意思決定はしやすいが、親権を失った親が養育に関わりにくく、子との交流が絶たれるケースも少なくない。厚生労働省資料によれば、1995年から2009年だけで約380万人の子供達の親が離婚しており、そのうち両親に会うことができるのは28%にしか過ぎない。これは15年間で約270万人、平均すると年間18万人の子供達が父親、あるいは母親のどちらかに全く会えないことを意味する。DV等の問題を抱え、子供からすれば会いたくない親もいるだろうが、その一方で大人の都合で離婚したにもかかわらず、子供達の大部分は親権を持たない親に会えないのが日本の現状だ。

2019(平成31)年2月、国連の「児童の権利委員会」が、日本の第4回・第5回政府報告に関する総括所見において、「児童の最善の利益である場合に、外国籍の親も含めて児童の共同養育を認めるため、離婚後の親子関係について定めた法令を改正し、非同居親との人的な関係及び直接の接触を維持するための児童の権利が定期的に行使で きることを確保する」ため、十分な人的資源、技術的資源及び財源に裏付けられたあらゆる必要な措置をとるよう日本に勧告した。これに対し政府は、勧告については真摯に受け止めているとしたが、2019年2月25日衆議院予算委員会において河野太郎外務大臣は「この児童の権利条約は、児童の養育及び発達について父母が共同の責任を有するという原則についての認識を確保するよう、締約国が最善の努力を払うことを規定したものにすぎず、離婚後の共同親権制度の導入について明文の規定は存在しません」と答弁した。

他方、国際結婚の増加に伴い、一方の親が無断で16歳未満の子を国外に連れ去った場合、残された親の求めに応じて、原則として元の居住国へ返還することや、親子の面会交流を支援することなどを定めたハーグ条約が1983年に発効し、日本を含む101カ国が締約している。そんな中で2020年7月、欧州議会は加盟国の国籍をもつ人と日本人の結婚が破綻し た場合などに、日本人の親が子を一方的に連れ去るケースが相次いでいるとして、連れ去りを禁止する措置や共同親権を認める法整備などを求める決議を採択し た。これに対し当時の森法務大臣は、離婚に伴う子の連れ去りや親権制度をどうするかとい う問題は複雑だが、子の利益を最優先として、様々な意見に耳を傾けながら検討を進める旨発言している。

国内法の視点だけで子供の権利は守れない

国際結婚が破綻した最近の例がある。別居中の日本人妻とフランス人夫間の保育園に通う娘の監護者を妻に対して仮に認め、現在父と暮らす娘を仮に妻に引き渡すことを命じた東京家庭裁判所令和2年9月14日の審判前の保全処分だ。国際的な民事事件では被告が日本国内に居住している場合、国内の裁判所に管轄が認められるので、この判決に基づいて娘の引き渡しは行われる。仮に夫が引き渡しを拒否すれば、人身保護請求という手段もあり、いずれにしても引き渡しが行われる可能性が高い。しかし、同様の事例で日本人妻が外国から子を国内に連れ去った場合、ハーグ条約に基づいてその子を元の居住国へ返還することが求められるが、現実的には全くと言って良いほど行われていない。

このような現状で、離婚する親が国際結婚をしていた場合、子供の立場は悲劇的だ。親権を持たない親の文化、言語、祖父母、いとこ達等、自分の半分のルーツから切り離される。人権は国境を超える。子供の人権を大人が守らなければ人権侵害は野放しになる。国連の児童の権利委員会の日本に対する勧告、ハーグ条約締約国としての日本の責務、そして欧州議会決議の全てが児童の養育及び発達について父母が共同の責任を有するという原則について最善の努力を払うことを要求し、日本の共同親権制度導入を示唆している。こうした流れを受け、2019年11月より公益社団法人商事法務研究会主催の家族法研究会において、父母が離婚をした後の子の養育の在 り方、離婚後共同親権制度の導入の是非、面会交流の促進を図る方策等が検討されてい る。また2018年2月には共同養育支援議員連盟総会において、「父母の離婚等の後に おける子と父母との継続的な関係の維持等の促進に関する法律案」が承認されている。さらに、法務省の予算で調査を行に、G20を含む海外24ヵ国の措置を調査している。その結果、日本と同じように離婚後単独親権のみが認められている国はインドとトルコの二カ国のみであり、多くの国で何らかの共同親権が認められている。共同親権、つまり離婚後であっても子が両親に会える権利を保証することは世界の趨勢と言っても良いだろう。安倍政権以来「価値の外交」を標榜する日本で、外務大臣が「明文の規定がない」、つまり明示的に共同親権の導入が勧告されていないという答弁でこの問題を引きずることは日本のイメージを著しく損なっている。

Friendly Parent Rule:フレンドリー・ペアレント・ルール

さて、離婚後の監護者の決定に当たって、別居親と子供の交流を促進させることが親権の判断基準の一つとする原則があり、共同親権を裏打ちするルールとして多くの国で認められつつある。これはFriendly Parent Rule: フレンドリー・ペアレント・ルールと呼ばれ、①別居親と子どもの面会交流に協力できるか、②子どもに別居親の存在を肯定的に伝えることができるか、③子どもが面会交流に消極的な場合でも、別居親との面会交流を子どもに働きかけることができるか等を、親権獲得の一つの条件とする原則で、米国やカナダなど多くの国で認められている。この原則が適応されれば、離婚後であっても両親との継続的な交流が実現する可能性が高い。子の最善の利益を考えた共同親権制度導入が困難なのであれば、フレンドリー・ペアレント・ルールが周知のものとなり、広く理解を得ることが、子の連れ去りを助長するような現状の司法判断を変える契機になるはずだ。

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Tadashi Inuzuka

WFM-IGP Executive Committee member, Former Senator of Japan