日産営業赤字△404億円という事実
昨日、日産自動車の2020年3月期の決算が発表された。ご存知のように、営業利益は売上から原価と販売費及び一般管理費を除いた本業の利益を示す数字だ。ホームページ上で公表されている日産自動車のIR資料を見ると1997年以来、日産が営業利益で赤字を計上したのは、金融危機の2008年を除いて初めてだ。1999年にムーディーズ及びS&Pが、支援を受けられない場合という条件付きで日産自動車をジャンク(投資に適さない)に落とすという発表をした時でさえ、日産の営業利益は825億の黒字を計上していた。上の図を見て欲しい。数字は嘘をつかない。1999年のカルロス・ゴーン着任から2008年の金融危機直前まで、日産自動車は社歴最高の営業利益を出し続けた。金融危機からもいち早く立ち直り、2015年まではさらに記録的な営業利益を出し続けた。それがどうだろうか。2016年の西川CEO着任後はつるべ落としである。2017年、2018年と急角度での営業利益の落ち込みは止まらず、11月のゴーン逮捕、そしてコロナ禍と続き、404億円の営業赤字を出すところまで落ちてしまった。日産自動車は日本を代表する超優良企業である。経営者が有能であればいつでもV字回復できる潜在力を持っていることは間違いない。日産ゴーン事件について安倍総理は、「本来、日産の中で片付けてもらいたかった」と発言したが、まさにその通りだ。一企業のガバナンスに関わる問題をまったくの無理筋で刑事事件とし、日産自動車の経営に計り知れないダメージを与えた法務省検察庁特別捜査部、内部情報を特捜に持ち込んだ旧日産経営陣、そして何よりもこれを助長した安倍政権中枢は、日産で働く14万の人達、関連会社、パート・アルバイト、その家族、ひいては日本経済に重大な責任を負っている。
そもそもカルロス・ゴーンとグレッグ・ケリーは有価証券報告書虚偽記載罪で同じ日に逮捕されている。その中身は、将来カルロス・ゴーンが受け取る予定とされた役員報酬が決算書に記載されていなかったという罪だ。技術的でわかりにくいかもしれない。しかし、虚偽記載に当たるかどうかは、「決算処理に用いたとする会計基準によって判断されるべき」というのが2009年12月7日に債銀最高裁差し戻し判決補足意見で示された最高裁判所の判断である。つまり企業会計原則において、将来支払うべき役員報酬を発生主義によって今期に引き当てるかどうかが問われる。この件に関しては犯罪会計学の第一人者細野祐二さんの分析を見て頂ければ実に明快なのだが、発生主義の原則による引当計上の3要件は①原因事実の発生 ②支払額の合理的見積もり ③支払いの蓋然性、ということになる。①については役員報酬は日産株主総会の決議事項なのだが、そんな事実はない。②についても取締役会及び株主総会の承認がない。③に至っては、出てきた文章が西川氏とゴーン氏という私人間のメモしかなく、加えてゴーン氏のサインすらないのである。つまり最高裁判所の判断通り虚偽記載の有無が会計基準によって判断されるならば、この件に関してゴーン氏もケリー氏も真っ白なのである。負けが分かっているからこそ検察も裁判の日程を伸ばしに伸ばしているのだろう。
米国で手術の予定があったケリー氏を旧日産経営陣が全くの嘘によって日本に呼び寄せ、到着したその日に特捜が彼を逮捕拘留している。保釈後、現在は東京のアパートに住んでいるが、公正な裁判どころか、180日を経過しても裁判の日程さえ決まっていない。彼の処遇に対して、既に3人のアメリカ上院議員が懸念を表明している。
こんな刑事司法の実態が、成熟した民主主義国家日本でまかり通っているとは、にわかには信じ難いかもしれない。一般的には、検察が逮捕した人間は何らかの罪を犯していると考えられている。しかし、事実を見ようではないか。企業会計の発生主義原則では、将来の、金額も決まっていない、しかも取締役会や株主総会の決議を経ていないような役員報酬は、そもそも計上のしようがないのだ。
日産自動車の営業赤字△404億円は我々に真実を知らせている。17年間に渡って日産を牽引してきたカルロス・ゴーンは、上記のような理由にもならない理由で社会的に抹殺されてしまった。特捜は水戸黄門ではない。そして水戸黄門だって間違いを犯すことがあるだろう。例え逮捕されても、裁判所が有罪判決を出すまでは無罪だという「推定無罪」の原則を、森まさこ法務大臣も身にしみて知ってはいない。
今からでも遅くはない。グレッグ・ケリーに対する告訴を取り下げるべきだ。取り下げることができないなら、恣意的に公判を引き延ばすことをやめ、1日も早く裁判所の判断を仰ぐべきである。こんなドタバタを演じ続けることで、万が一日産自動車が倒産するような事態になったならば、旧日産経営陣、特捜、マスコミ、そして安倍政権は一体どのような責任を取るのだろうか。