Tadashi Inuzuka
6 min readSep 16, 2020

--

自然災害を「人類共通の敵」とするHRTF③ 日米地位協定の改正

イージス、F35、そしてオスプレイの導入は自衛隊をますます米軍と一体化させ、日本独自の運用を困難にするだけでなく、集団的自衛権の発動によって米国の戦争イコール我が国の戦争になるという「危険な安全保障」の側面がある。他方、戦後70年以上にわたって日本が屈辱的な地位協定を改定できなかったのは、NATO加盟国であるイギリス、ドイツ、イタリアと比べて米国との相互防衛の枠組みがないからだ、と説明されてきた。このジレンマからの突破口は、仮想敵国に対する「専守防衛戦争」の準備ではなく、現実的に目の前に存在する自然災害に即応する国際的な体勢を作ることにあると考える。今、カリフォルニアの山火事、アマゾンの熱帯雨林火災など、地球温暖化により世界で頻発している大規模な森林火災は一国では処理できない状況になってきている。日本はすでにJICA(国際協力機構)を通じてオーストラリアやブラジル、アマゾン地域の森林火災に対する支援を行っているが、改善の余地は大きい。ここで注目すべきなのが飛行艇による航空消防の可能性だ。

現在、海上自衛隊が捜索救難機として使用しているUS-2という機体がある。新明和工業株式会社が開発した水陸両用機だ。世界の森林火災と航空消化について<第2報>によればUS-2を固定翼消防機に改造した場合、搭載水量15kl、航続距離4,600km以上、そして波高3mの外洋に着水できる世界で唯一の消防飛行艇になる。各国が所有する中・大型消防機は2012年時点で243機にしか過ぎず、また現在生産されている世界の飛行艇はカナダのCL-415、ロシアのBe-200だけで、機能的にはUS-2が遥かに優れている。こうした機体の運用については、米国では農務省森林局が連邦の航空消火規則やマニュアルの整備、消防機の登録等の管理からリースした消防機の各州への派遣を行っている。しかし、2000年代前半には軍用機を改造した消防機の主翼が空中分解するなどの事故が重なった。さらに同時期、欧州では電線に接触したり、煙の中に入って斜面に激突するなどの事故が多発し、飛行管理の改善、地上-空中間の連携、訓練の強化等の対策が必須になっている。仮に日本からUS-2を森林火災の現場に派遣する場合、現地での飛行制限空域の設定、指揮管制機との連絡など、現地及び国際的なステークホールダーとの緊密な連携が必要であり、単発的な派遣ではなく日常的な共同訓練が必須だ。加えて、機体の整備、部品や工具の提供、パイロットのトレーニングなどを考えれば、通年で駐屯し現地にノウハウの移転を行うことが必要になるだろう。まさに日本らしい国際貢献の形ではないだろうか。

しかし同時に考える必要があるのは、他国に実力組織が行けばさまざまな事故/問題が起こる可能性があることだ。一方で、身の危険を犯しながら消防活動を行っている時まで現地の刑事司法制度を適応されれば、訓練や消防活動に支障が出る。他方、そうした滞在が長期化すれば、訓練中/本番中の事故、あるいは業務外における交通事故や、窃盗、傷害、レイプ、殺人が起こる可能性もある。どのような時、どの国の刑事司法制度で裁かれるのか。どんな地位協定が望ましいのか。日本から航空消防の選択肢を提供して地元機関との共同訓練を重ねるのは良いが、あらゆる事態を想定した中立・公平な地位協定の締結が必須だ。これが実現すれば、同等の条件を在日米軍に要求する交渉ができるはずだ。

イギリス、ドイツ、イタリアなどと比べて日本の地位協定が屈辱的なのは、NATOの相互防衛協定に類するものが日米間にないからだという説明がなされてきた。そうした中、我が国で進行中なのは、難しい憲法改正を避けて運用面からこのアンバランスを改めるため、集団的自衛権は行使する、敵基地攻撃能力を持つという方向だ。その次には憲法に自衛隊の存在を書き込み、軍法を整備して海外の自衛隊に国際法上の市民権を与え、国民の理解が得られる時期を見て、堂々と自衛軍として規定する。こうして、日本軍が海外に派遣された時の地位協定と同レベルのものを在日米軍に要求するという交渉になるのだろう。しかし問題は、こうした武装同盟政策の先にどんな世界が見えてくるのかという点だ。歴史を見れば、バランス・オブパワーの行き着く先が第二次世界大戦5,000万人以上の犠牲者と原爆の使用だったことは明らかだ。産軍複合体や傭兵組織が跋扈する武装同盟の未来を、希望を持ってグレタ・トゥーンベリや世界の小・中学生に説明できる政治家はいないだろう。

今の日本は、米第7艦隊に母港を提供し、駐留米軍基地から事実上の自由出撃を許している。外交・安全保障の観点から見れば日本は米軍の出先機関だ。今の日本からいくら自然災害を「人類共通の敵」とする国際機構を提案しても説得力に欠けるだけでなく、真意の見えない恐ろしさを感じるだろう。その理由は、第一に専守防衛と言えばどんな装備でも持てるようになり、周辺国との相互不信という悪循環に入り込みつつあること。第二に軍事による抑止力を言うのであれば敵基地攻撃能力のみならず自ら核武装をし、なんらかの徴兵制度を持つのは当然だが、そうした本音の議論なしに物事が進んでいること。第三に現状の方向性では自衛隊の運用は米軍抜きで考えられなくなること。第四に日本が攻撃を受けた時には米軍が助けてくれるが、米国が攻撃を受けた時には日本は助けません、という話は通らないことだ。次の政権交代がある時、日本は2兆5千億円にも及ぶF35の購入をキャンセルすべきだろう。オスプレイの導入もストップして、自分の国は自分で護る体勢を構築すべきだ。孫子は「戦わずして勝つ」ことが最上であると言った。敵は軍事予算を際限なく増やす勢力であり、紛争を営利活動とする傭兵組織ではあるまいか。こうした強大な勢力に勝つためには、米国の良識派と連携しながら日本周辺諸国との信頼醸成を進めるしかない。

HRTFは軍事組織だが、そのミッションは基本的に丸腰、非武装で行う。国際条約に基づいてHRTFが設置されれば、自衛隊が海外に派遣される時は日の丸ではなくHRTFの旗を持つことになる。その場合、NATO軍の地位協定とHRTFの地位協定は同じものではないはずだ。そこで次回は、HRTFを支える原則としての「保護する責任」を考えて見たい。

--

--

Tadashi Inuzuka

WFM-IGP Executive Committee member, Former Senator of Japan